チャットといえば、インターネットを利用したリアルタイムのコミュニケーションである。

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図1 AOSモバイルのInCircle

リアルタイムでコミュニケーションを行うので、1回の書き込みは数文字~数十文字程度くらいが一般的である。その気軽さと情報共有のしやすさから、非常に多くのユーザーが利用している。一方で、SNSは友人や知人といった人間関係を経由して、ユーザー範囲を拡大していく。そこで、上述のInCircleでは、企業向けにユーザーを限定したり、通信の暗号化を行いセキュリティ対策を施すチャットシステムも登場している。
そのチャットが大きく変わろうとしている。本稿では、チャットボットの概要を紹介し、現在、開発が進みつつある事例のいくつかを紹介したい。

チャットボットとは

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図2 チャットボットのイメージ

チャットボットの「ボット」は、「ロボット」が語源である。ロボットといえば、人間が行うさまざまな活動や作業を代行してくれるのが一つの理想形である。ここでいうところのチャットボットは、人間の代わりにコミュニケーションを自動で行ってくれるプログラム(もしくは、それを含むシステム全体)のことである。
チャットボット自体は、決して新しいものではない。古くは、1960年代にワイゼンバウムが作成したELIZAがある。人間の文字入力に対し、文字列で対応する。心理カウンセラーのような対応が特徴的である(人工無能とも呼ばれた)。その後、人工知能や自然言語処理(や音声認識)技術の進捗に伴い、さまざまなシーンで対話可能なシステムが模索されている。そのなかでも、スマートフォンのチャットやメッセンジャーといったアプリに、注目が集まっている。
その理由の1つは、普及率の高さである。スマートフォンに限らず、チャットアプリをインストールするユーザー数は、25億に上るとの報告もある(The Economist/Statistaの調査による)。つまり、チャットアプリは、ほとんどの端末で標準装備されるアプリといえる。そこで、メッセージの交換だけでなく、チャットボットによる新たな試みが検討されている。
技術的な背景ばかりでは、実感もわかないであろう。具体的な事例から、チャットボットのイメージを紹介しよう。まず、次のようなメッセ―ジのやりとりを見ていただきたい。黄色のメッセージは人間が、青色のメッセージはチャットボットの応答である。

検索もチャットから

実際、上述のような完璧な応答をするチャットボットは、まだ存在していない。しかし、同様のことを従来の検索システムで行うとなると、

●レストランガイドを起動
●場所の情報などで絞り込み
●地図アプリで場所を確認

といった作業が必要になるだろう。しかし、上述のようなチャットボットが登場すれば、すべてチャットアプリ上で作業を終えることができるようになる。
また、現状の多くのアプリはチャットボットに置き換えることが可能ともいわれている。たとえば、検索ならば検索サイトに行き、検索語を入力する。しかし、チャットアプリで検索が可能になれば、わざわざ検索サイトに行く必要もない。さらに、上述の例ではないが、数回の質問を繰り返すことで、適切に絞り込まれた検索結果が得られるようになれば、検索エンジンに代わる存在となる可能性もある。現時点では、そこまでのチャットボットは存在しない。しかし、2000年以降、インターネット検索が世の中を大きく変えたように、チャットボットもその可能性を秘めている。
さらにいえば、新しいアプリであれば新しい操作方法を覚える必要がある。しかし、チャットならば、新たな操作を覚える必要はない。普通にメッセージを書き込みをするだけでよい。こういった操作性の容易さもボット化によって、既存のアプリにとって代わる可能性をうかがわせるといえるだろう。

ショッピングもチャットボットで

以下では、実際に行われているチャットボットを利用した事例を紹介したい。まずは、北米のユーザーが中心のメッセンジャーであるKikである。

f03ネットショップではなく、ボットショップと呼ばれるものだ。提携先には、ファストファッションのH&Mなどがある。2016年3月にオープンしたばかりであるが、提携先は、約50社になっている。購入したい商品の会社とボットを作成し、あとはメッセージをやりとりすればよい。たとえば、衣料品であれば色やサイズなどを質問に答えることで、ほしい商品を購入できる。ここでもWebサイトとアプリから、チャットボットへの移行の可能性を感じさせる。もう1例紹介しよう。中国のWeChat(微信)である。

図3 KikのBot Shop(https://bots.kik.com/#/

f04WeChatでは、すでにチケットや航空券の予約などをチャット上で行っていた。これまでは、チャット専任に従業員が顧客の質問やリクエストに対応していた。それが、購買履歴やユーザープロフィールを参考に、チャットボットが対応するようになっている。現時点で、すべてのチャットがボット化はされていないようである。
したがって、問題点をあげるとすれば、リアルタイムではない点である。人間がなんらかの形で関わっているため、若干のタイムラグが発生している。上述の衣料品などでは、購入するのに20分もかかったという例もあるとのことだ。もし、完全にボット化されれば、瞬時に売買を行うことが可能になるだろう。
各社とも、現時点では、一部の顧客への限られたサービスとして提供している。今後、データの蓄積、システムの構築などを経て、100%ボット化されたシステムへ移行する戦略と予想される。

図4 WeChat(http://www.wechat.com/ja/

ビジネスでもチャットボット化が

次に、ビジネスシーンを見てみよう。PCやスマホを使った交通費精算などは、ごくあたりまえである。この清算システムとチャットを結び付けるのが、チャットボットである。

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図5 清算システムとチャットボット

図5のように、チャットと清算システムの間に位置するのがチャットボットになる。「清算開始」といったユーザーのメッセージを検知すると、チャット上で清算システムが稼働する。チャットボットが、日付、訪問先、交通手段、出発、到着、費用、片道往復などを入力させる。これらの入力を受け取ったチャットボットは、清算システムにその内容を送る。

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左の画面はチャットボットでの会話である。会話の中に「よく行っている」や「お疲れさま(^o^)」といった表現が登場している点に注目したい。過去の履歴から、なるべく入力が楽になる配慮がなされている。また、労をねぎらう言葉によって、必要事項を入力するだけの機会的なシステムとは異なり、わずかかもしれないが人間味を感じさせてくれる。このあたりは、今後のチャットボットの可能性や差別化を示唆するものといえるだろう。

もし、チャットによる入力が好みでない場合は、メッセージ画面をスワイプさせて、従来型の入力画面を呼び出せるといった工夫があれば、使い勝手もよいだろう。

開発環境も提供開始

マイクロソフト、フェイスブックでは、チャットボットのための開発環境の提供を開始した。

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図6 フェイスブックのメッセンジャープラットフォーム

http://newsroom.fb.com/news/2016/04/messenger-platform-at-f8/

本文でもふれたように、現時点では、実用的なチャットボットはほとんどない。しかし、開発環境の提供されたことで、開発も加速すると思われる。また、検索エンジンに変わる新たなプラットフォームも期待できるであろう。交通費の清算システムとの連携などのように、システムとの連携ではアプリケーションのAPIの標準化も必要になるだろう。
本連載では、そのような新たな取り組みなどを積極的に取り上げていきたい。またチャットボットが提供するサービスも紹介したいと思う。